元空軍F18のパイロットが教える危機管理のクラスがスペインのMBAであり、幸運なことに参加することが出来た。軍とビジネスの危機管理に共通点はあるのか?一体、軍と民間にどの様な関係性があるのか?単に面白いWar Gameなのか?このポストはMBAへの参加を迷っている人に、ヒントになるでしょう。また企業向けの研修で、いつもと異なるアプローチを探している人事の方にも有益だと考えます。
クラスからの学びをまとめ、危機発生時にわかること
この10時間のクラスを通じで分かったことは次の3つ。
- 普段からの準備が大事。準備は作戦と人間関係を意味する。特にお互いの理解度の深さが大事
- 普段仕事が出来ても、危機時には人間は全く違う面が現れる
- お互いの尊重から責任感が生まれる
1の準備の定義が、特に実感できる授業であった。即席のチームでは、いくらメンバーが優れていても、まとまりがなく、個人の能力よりもチームワークの重要性が大事を実感できた。スピード求められる状況においては、トップダウン型のリーダシップが効果的であるが、一旦仕事の分担化ができると、普段からのお互いの理解度が結果に決定的な差を生む。別のチームの行動予想がわかっていれば、全体像が見渡せる。戦略に波長が合うのだ。一方、チーム毎に別の方向に向かっている場合は、局地的には勝てるかもしれないが、全体的には負けとなる。
駐在員時代、本社との意思疎通は大きな課題の一つで、当時は連絡網としては電話、Faxそしてテレックスがあった。この制限下、結果を出す駐在員は、明らかに本社とのコミュニケーションが太く、且つ状況対応における準備が整っていた。通信インフラが大きく進歩した現代においても、コミュニケーションが大きな課題とあるのは、お互いの理解度と準備に関する項目は、一向に進歩していないのだろう。
一連の流れで面白いなぁと思ったのは"Pincho"と呼ばれる日本の飲み会と同類の場が、スペインの軍隊において、チームワークの向上には役に立つという「事実」を強調していたことだ。日本では「会社の飲み会」は遠慮傾向にあるが、危機管理における最も重要な人と人の信用は、このような場を通じて大幅に強化出来ることであった。そして、ビクトール先生によると、これは一般社会においても同様のことと念を押してくれた。
注: Pinchoは一般的には日本語のおつまみを意味する。串刺しにしている場合が多く、パンに各種材料を乗せて串刺しにて、その材料が落ちないようにしているスタイルが典型的だ。スペインではこのPinchoとワインで楽しい時間を過ごすことはごく日常的だ。
普段からの準備の中で最も印象的だったのは、作戦実行に際しての優先度がはっきりと決まっていて、それが組織内で浸透していると言うことだ。彼らの作戦立案の最初の項目はレスキュー部隊の確保であった。この項目にチェック事項がない限り、次の項目に進まない。そしてこれがどの部署にも浸透している。これは凄いとしか思えなかった。これをビジネスに取り入れるのであれば、損切りの閾値をどこにするかであろう。
2つ目の「普段仕事ができる奴が、緊急時に使えない」は驚きの事実でもあった。軍という組織の中で、十分に訓練を受けていても、この事実が当てはまる。一般の世界では「それは、あるある」と想像できるが、「生と死」の組織でも同じことが当てはまるとは想像できなかった。緊急時における行動パターンの研究は、実験室で実施することは不可能である(黒田勲,1986)にある様に、近似環境を作ることは出来るが、完全なる訓練を実施することは出来ない。しかし、この様なシュミレーションを体験することで、多くの学びがあるのは間違いない。「いざとなると使えない奴」は我々の日常生活でも接する事がある体験の一つだ。クラスでの課題はどこまでのストレスに耐えることが出来るのか、そしてどの様に行動パターンが変化するかを、自ら理解することにある。
3つ目のお互いの尊重だが、これはなかなか難しいテーマだ。日本人は相手の気持ちを考えることが得意だが、これを相手に求めると間違いが生じる。同意を目指すのではなく、はっきりと意見を述べることが尊重の第一歩とこちらでは考えて間違い無いだろう。日本人にとっては最もインパクトのあるチャレンジと言って良い。お互いの尊重はこの授業では、役割や責任を果たす事が基本であり、その後、他の部門への気配りという流れを学ぶことにある。時間に余裕があったり、能力の余力があるのであれば、この2つを同時にすることが可能であろう。クラスでは普段やったことのない業務の理解をするのが精一杯という状況に置かれるので、チーム間で生まれる緊張感の中で、相手を尊重するという課題に直面する。
一番最後になったが、モチベーションはやはり大事という話だ。モチベーションがあればゴールへの達成度が大きく異なる。このシュミレーションで言えば、やる気の多い人数で、ミッション成功率が上がる。ではモチベーションはどの様にあげるのだろうか?そしてモチベーションが上がると何が起きるのだろうか?例えば、1億円の広告キャンペーン作戦を実施するが、失敗しても、「生き残れる」とわかっていれば、目的達成のためのリスク強要度が上がるのではなくて、参加する人のモチベーションが大きく上がるはずだ。イノベーションもきっと生まれやすくなるだろうし、困難を乗り越える理由があるのは素晴らしい。モチベーションを作ったり、キープするのはリーダーの役割でもある。
MBAの参加を考えている人へのお勧め
- MBAによっては、このように特別な体験が出来るクラスがある
- オンラインでこの体験を共感レベルに持っていくのは、難しい。実際に参加出来、その場ぶつかり合うことができるMBAが良いだろう。
MBAへの受講決断には、様々な理由があるだろう。MBAで最も価値があるのが、MBAを通じて価値観を共有出来る友人との出会いだ。(これは軍隊と似ているかもしれない)このような価値観の共有には、実際に顔をつきわせた時間と体験共有が最も適している。
このクラスの構成は40%が説明、60%がグループワーク。説明はチームワークや危機管理に関する一般的な話と、ブリーフィングと言われる、危機対応における各部門の役割とゴールの確認だ。
クラスは非常によく準備されており、地域紛争における非常事態をよくシュミレートしている。危機管理オペレーションセンターでは通常CNNが流れており、ここでもニュース形式の動画再生による現場の緊張感を再現している。オペレーションに必要な各種情報はオンライン上で確認できるWEBアプリがあり、グループワークが可能な地図上でのシュミレーション、そして情報が統制されたボード等、準備に抜かりがない。
最初のグループワークは組織図により、各人の担当決め、一般ブリーフィングを行い、その後各グループが大量の情報整理を行う。ここには混乱があり、且つブリーフィングからの必要な情報の抜き出し、そして何をするかいくつかのNext Stepを行う必要がある。その後、それらの準備確認をリーダー(作戦本部長)のリードで行い、各グループのミッションとリソース確認を行い、最初のグループワークは終わる。
この時点で、情報を整理しきれていないグループが出てくる。また紛争解決ではあるが、一種の戦争ゲームでもあるので、参加する生徒達の興味の深さが違うようだ。
翌日は授業の振り返りから始まり、その後急激に変わった状況変化への対応をグループワークを通じて、学習する。
振り返りは参加者の異なった意見が数多く聞かれ、ここが学びの多かった時間でもある。日本であれば、ここまで個人の意見を主張し合う風景はまずないだろう。主張出来ない人は、ここでは「意見がない人」となり、できない奴になる。自分の意見をまとめて主張できる奴は、「凄い奴」でもっと面白いは、正解者はいなくても良いことだ。
このクラスは通常のクラス運営とは異なっていて、教授の他に2名が授業サポートとして参加している。利用するオンラインシュミレーターのバック、リモート向けのZoom運営(ブレイクアウトや動画再生)に1名、さらに元パイロットが参加し、授業を円滑に進めるようにしている。それだけ、専門性の高い内容であり、危機管理時の情報整理の難易度が難しいからであろう。生徒のフォーカスズレを防ぐためにもこの様な準備がなされているのであろう。
担当さている、Victor García Socuéllamos 先生 と同僚が話す言葉が、限りなく近いのは、同じ価値観を共有しているからであろう。チームワークを超えているレベルで、これはなかなか出来ることではない。仕事を超えた「仲間」であるのだろうと想像出来る。そしてそれは美しいし、強さを感じる。
授業終了後は別の世界のプロ達との交流が出来たこととても嬉しくなった。彼らが発する言葉は「重く」、単純にビジネスにどのように応用すべきかと言う次元とは異なるように感じた。クラスのまとめを振り返ると、極めて常識的な話になるが、ここまで読んでいる方にボーナストラックを用意した。それは「優等生な奴ほど危機時には使えない」だ。
戦闘機のパイロット訓練で、最も危険なのは、ミスを犯さないパイロットで、最も安心出来るのは「ミスをして、学んだ」パイロット
とのことだ。この事実は重い。
教育現場では小さい時から優等生を育てようする。社会人になると、ミスが許されない環境に置かれる。人評価は、成功事例が対象。身の回りは、成功者で溢れている。しかし、危機時にはこのような成功者は生き残れないらしい。
こうして再度授業を振り返ってみると、この最後の点が、このクラスから学びであり、もう少し考えてみると、学習の本質はここにあるのかなと思う。
課題:危機管理はトップダウン型の組織が得意?
軍組織は典型的なトップダウン型の組織。その一方、現代のビジネス環境はよりフラットで横のつながりが強い組織。トップダウン型なので、危機管理がより効率的に出来るのだろうか?
私はトップダウンが基本であるが、横の繋がりがあると、より強い組織になるという考え方だ。運営効率を目指す場合は、トップダウン型の場合、管理がよりしやすいだろう。そして、これが一番の理由だが、メンバーは決断を取ってくれるリーダーを求めているという現実もある。フラット型の組織に対する好意度はビジネススクールの学生の30%以下。多くは効率の良い組織化を求めている。フラット型に対する心配は、現場のカオス化だ。現場の複雑化には対応しきれない場面が出てくる時は、横のつながり度で対応が異なるのという理由だ。
分かりやすい例では「東京MER〜走る緊急救命室〜」が司令系統の異なる部門と現場で協力する場面がある。スパイ映画でもアクション映画でも、現場での横繋がりで、解決してく場面がある。我々のビジネスでも同様なことは頻繁に起きている。
全くフラットな組織とヒラルキーな組織のどちらを好むかというアンケートをMBAの生徒に2018年に実施した。それは、Zapposを通じて自主管理の仕組みである「ホラクラシ―」を学んだ後に行ったのだが、70%を超える生徒が、ヒラルキーな組織を望んだ。理由はフラットな組織は責任の所在が曖昧で、リーダーが不在なため、全体のコントロールが不可能になるからということだった。これは興味深い事実である。
参考文献
黒 田 勲, 1986,航空機における緊急状況下の人間の心理と行動社会心理学研究第1 巻第2 号14~11, P5
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